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アメリカ産牛肉の輸入と狂牛病(BSE)

1.アメリカのBSE事情

2003年 12月、アメリカでBSE(牛海綿状脳症 = 狂牛病)感染牛が見つかりました。これを受け、アメリカ政府は新たに対策を立てます。

 へたり牛の食用禁止
 生後 30ヶ月以上の牛について脳やせき髄などの特定危険部位の食品化禁止
 検査結果が出るまで食肉を流通過程に乗せない

これに、屠殺時の技術的問題、そして監視体制についての細目が加わるわけですが、正直なところ「えっ それだけ?」という印象です。

現在アメリカで実施されている検査とは 「ヘタリ牛と生後 30ヶ月以上の一部を検査する」 というものなのですが、この曖昧な基準はなんなんでしょうか? 自力歩行できないヘタリ牛をラインから外し、生後 30ヶ月以上の牛を 1頭でも検査しておけば、とりあえず満たされてしまう基準。 ・・・ゆるいです。ゆるすぎます。

またアメリカでは、感染予防の観点から肉骨粉の使用を禁止していますが(というより、この措置は日本より古くからなされています)、この規制についてもこれまで徹底されてきたとは言い難く、実際に規制後の「肉骨粉使用事例」がいくつも確認されています。ひとつ具体例を挙げると、米国最大の肉牛生産地のひとつであるコロラド州では、肉骨粉が規制されて 4年経っても、飼料製造業者の 1/4 以上がそれを知らなかったそうです。

科学の素養がない私が「どのような検査がなされれば牛肉の安全が保証されるのか」という問題を語ることはできませんが、少なくとも 「人間の健康」 という重大な問題に対する国家の態度として考えた場合、アメリカ政府に真摯なものをみとめることはできません。


2.日本に対するアメリカの態度

日本が求める 「全頭検査」 をアメリカ政府はにべもなく拒絶しています。日本は殊勝にも、技術提供や費用の一部負担まで提案しているようですが、効果がありません。

しかも驚くことにアメリカ政府は 「生後 30ヶ月未満の牛の危険部位除去」 まで拒んでいます。生後 30ヶ月未満の牛にBSE発症実例があるにもかかわらず、アメリカはその危険部位を食品として売り続ける、と言うのです。

もちろん、それをアメリカ国内で販売するだけなら文句をつける筋合いでもないのですが、アメリカは「その危険な牛肉を買え」と日本に猛烈な圧力をかけてくるのですから困ってしまいます。

「メキシコは日本よりずっと柔軟だ」なんて婉曲的に圧力をかけるなんてまだかわいらしい方で、今年の 3月には、WTO(世界貿易機関)への提訴までちらつかせはじました。

ちなみに、日本でBSEが確認された際、アメリカは即座に日本からの牛肉輸入を禁止しました。そしてその措置は、日本が全頭検査を実施して後も見直されず、現在に至るまで一切の輸入が禁じられたままです。


3.日本の世論

大雑把に業界の反応をみてみると、小売業界では「アメリカに全頭検査を要求すべき」という意見が、外食業界では「アメリカの提案に則した形で早期に解決すべき」という意見が強いようです。畜産業界が輸入反対であることは言うまでもありません。

国民の意見も多種多様なのでしょうが、私が不思議に思うのは、この問題をあまり重要視していないと思われる人が存外に多いことです。

アメリカでのBSE感染牛確認が報道されて以来、マスコミは連日「牛丼チェーン店の危機」を面白おかしく報道しました。その報道によると「多くの国民が『大好きな牛丼』にしばしの別れを告げるため牛丼屋に殺到した」ということのようですが、この反応が私には理解できません。

世界各地で狂牛病が確認されて後も 『アメリカ政府は不十分な対応しか取ってこなかった』 こと、そしてアメリカ産の牛肉はその解体処理方法の特性から 『本来安全であるはずの部位にも危険部位が混入している危険性がある』 こと、などが報道されているにもかかわらず、人々は 「そんな」 アメリカ産牛肉を体内に取り入れるため、牛丼屋の前に行列まで作ったのです。

巷を賑わせた報道のなかには 「日本政府は我々から牛丼という国民食を奪おうとしている」 とでも言いたげなものまで見られる始末。

かつて国内で狂牛病が騒がれた際には市場から国産牛の全てが消えたのに、今回の騒動のなか、アメリカ産牛肉は当り前のように人々の口の中へと消えたのです。


4.企業の対応

アメリカの狂牛病騒動が報道された際、私は当然のように 「米国産牛肉を在庫している企業はその廃棄を宣言するのだろうな」と考えました。一部の悪徳企業が「これは国産牛です」と嘘をついて売ることはあっても、まさかBSEに侵されているかもしれない牛肉をそのまま売ることはあるまい、と思ったのです。

しかし、周知のとおり、多くの外食産業企業は当り前のようにその在庫を客の口の中に放り込みました。

国内で狂牛病が騒がれたときには「当社で扱う牛肉は 100%アメリカ産だから安全です」とアピールしていた企業が、いざアメリカでBSE感染牛が確認されると、ただ黙々と在庫のアメリカ産牛肉を売りさばき、在庫が切れると日本政府に対して、アメリカ政府の条件を受け入れて一刻も早く輸入を再開するよう迫る。

いままで愛してきた企業(店)のそんな振舞いを見せつけられて、私は心底悲しかったです。

いずれ狂牛病の問題は解決を迎えるでしょう。しかし、いったん生じた企業モラルに対する不信感は決して消えません。


5.私見

やはり、かなりの確度で安全性が保証されない限り、アメリカ産の輸入を再開すべきではないと思います。もし日本政府が中途半端な状態で輸入を再開すれば、少なくとも私は牛肉を食べなくなるでしょう。

この問題について、いまでこそ世論は落ち着いた反応をみせていますが、いったん火が着いたら、それを沈めるのは容易ではありません。下手をすれば国内の畜産業、小売業、そして外食産業が決定的な打撃を受けます。


6.付記

現状において、BSEと人間の健康の因果関係は証明されていません。

しかし疫学的観点から、人間に発症するクロイツフェルト・ヤコブ病との間に何らかの関連性があるのではないかと疑われています。

先日、ニュージャージー州でクロイツフェルト・ヤコブ病にる 13人の死亡が報道されました。 100万人に 1人の割合でしか発症しない病気が極めて限定的な地域で多発した、というだけで十分異常な事態といえますが、さらにこの 13人は同一の競馬場に出入りしていたそうです (競馬場内のレストランが問題視されています)。

同州の上院議員が米疾病対策センターに調査を求めたそうですが、調査が実施される予定はありません。


7.付記 その2

かつて国内で狂牛病が騒がれた際、牛肉が消えたことで生まれた市場の「穴」は多額の税金によって埋められました。そして今まさに、この件が政界汚職問題へと発展しようとしています。



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Posted by mugio at April 26, 2004 12:37 AM | Title: アメリカ産牛肉の輸入と狂牛病(BSE) | TrackBack
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